2012年7月25日水曜日

【報告】第23回建築夜話 「理学療法士の目線で考える住宅改修」 講師:遠近高明氏(理学療法士)

第23回建築夜話 「理学療法士の目線で考える住宅改修」事業報告

報告者:事業委員 阿部 徳人


■会場 西宮市市民交流センター
■日時 平成24年6月30日(土)15:00~17:00
■講師 遠近高明氏(理学療法士 箕面市健康福祉部高齢福祉課 勤務)

遠近 高明氏

 住宅建築という分野において、「住宅改修・リフォーム」の占める割合が年々増加しています。偏に住宅改修といっても、建物自体の老朽化によるものであったり、住まい手側の変化によるものであったりと理由は様々です。
 今回の建築夜話では、将来どこの家庭でも必ず必要になってくるであろう「高齢者や身体障害者の介護を目的とした住宅改修」に焦点をあて、介護を必要とする側(一般の方々)、住宅改修を行う側(建築士)、そして介護をサポートしていく側(理学療法士)が考えていることが、必ずしも同じではないというあたりのお話を講師の遠近氏にしていただきました。

※第23回建築夜話は、社団法人兵庫県建築士会・平成24年度「建築士の日」事業の一つとして行われました。
「建築士の日」とは建築士を広く社会にPRすることを目的に昭和62年に社団法人日本建築士会連合会によって制定された記念日です。

 遠近先生の講演は、用意していただいたスライドを見ながらによるもので、そのテンポはとても小気味よく、また先生自身の優しい語り口調とも相まって、たいへん聞きやすいものでした。
 講演のはじまりは、現在勤務している箕面市役所の中で行政職員として介護保険制度を運用している立場から、「介護保険制度の対象者」及び「要介護度の区分」そして、補助制度等の説明が行われました。住宅改修費の説明では、制度自体がまだまだ知られていない制度であり「建築士の皆さんには是非とも押さえておいてほしい内容」との事で、詳しく説明されていました。


 制度を有効に活用するために、改修と改造の違い、改修費の例外などの説明があり、介護保険制度というのは、介護を必要とする人を手厚く介護するための制度ではなく、これから介護を必要とされるであろう、若しくは初期の介護を必要とされる方をできるだけ介護を必要としない状態へもっていくための制度であり、あくまでも自立を促す為の制度だという認識を改めてさせられました。

 この日の出席者比率は、圧倒的に建築士のほうが一般の方より多く、「建築士の日」事業としては少し残念な形になってしまいましたが、逆に建築士が多いということで、遠近先生には急遽当日になってから講演内容を一部変更していただき、箕面市での実際の制度利用度のデータを見せて頂くことになりました。介護保険制度については、申請者数、利用者の平均年齢ともに順調な伸びを見せており、具体的には浴室の扉を折れ戸に換える改修や、レバー式のノブ交換も増えているとのことでした。とはいえ、それらは、箕面市全体の人口からいえば、数パーセント程度でしかなく、今後は、建築業界の方と一緒になって、利用率を伸ばしていけないものかとの問いかけもありました。



 日本人には昔からトイレとお風呂は、家族も含めて、自分以外の人には見られたくないという特徴があるようで、理学療法士の立場としても、その部分は出来るだけ自立できるように考えているとのことでした。生身の人間が生活するのだから、そこに感情が生まれてくるのは当然と言えば当然の事なのですが、家を機械的な視点で捉えると、ついつい見落としがちな部分だと思いました。
 日本家屋には、日本独特の文化が反映されており、それは介護という面にも多くの影響を与えているらしく、おもてなしの文化、四季がある風土、外から中への文化、後付け工法、狭い方が安心する気質等、の影響で、家屋の中にやたらと段差が多いのが日本家屋の特徴だとの事でした。
 現在の家づくりでは、家を建てる段階でそれらの障害の多くは解消されているのですが、それでも、介護の為の住宅改修の必要性は増えていくばかりだとか。



 そんなわけで、講演はこの日のメインイベントともいえる個々の場面を想定しての、意見交換に突入です。遠近先生から、「こんな場合ならどうしますか」と質問があり、それに対して出席者が思うところを答えていく。大抵の場合に先生は、「正解」、「と言いたいところですが、実際には違うんですよ。教科書では、そう教えているのですが・・・」という感じのやり取りが行われました。ほんの一部を紹介します。
  • 杖の高さ
  • 教科書では、大転子の高さにあわせる
  • しかし、実際には、もう少し高めにあわせる
  • 屈曲30度ではなく、屈曲40度
  • 手すりの高さ ⇒杖の高さにあわす
  • いやいやもう少し、高めにあわせたほうが良い
  • 片足が悪くなったとき、どちらの手で杖をつくか
  • 悪くなったほうの手で杖をつく
  • はい、間違いです。(意見がわかれました)
  • スロープを作ります
  • すべてをスロープにするのは勧めません
  • だって、スロープのほうが、お年寄りには負荷がかかる場合が多いからです

実際に体を動かしてみたりして、とても楽しく勉強させていただきました。
 家を作る立場としては、施主様の意向を優先し、経済的な部分なども絡めながら、対応する事が多いと思いますが、その中に、今回教わったような視点を取り入れていくことは、とても必要な事だと強く感じました。ありがとうございました。 (報告おわり)


報告書(PDF)